ロボトミー手術?ノーベル賞の怖い手術

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本エントリーは怖い話を扱っております。ご注意ください。

皆様は精神的な疾患について、どのようにお考えをお持ちでしょうか。

PTSD、うつ病、パニック障害…などなど

患ったことのある方はもちろん、その経験がない方にとってもできれば直接的な治療法が見つかれば、大変喜ばしいことだと思います。

心の病はいつ誰が患ってしまってもおかしくないですし、現在においては手っ取り早く治す方法はございません。

古くから現在まで多くの優秀な科学者たちが精神疾患の治療法を研究しておりますが、その過程で流行した治療方法の一つに「精神外科」という方法がございます。

精神外科とはすなわち、手術によって精神疾患を治療するという外科的手法。

現在ではその危険性・非人道性から精神外科は一部を除いて行われることはありません。

今回はその「精神外科」の代表としてよく知られている

ロボトミー手術

についてご紹介したく存じます。

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前頭葉の働き

ロボトミー手術とは詳しくは後に述べますが、端的に述べれば

「人間の脳の前頭葉という部分の機能を無くす手術」

です。

前頭葉はどこにあるのか?

ロボトミー手術のアプローチ対象である「前頭葉」はどこにあるのでしょうか。

大脳は大きくわけて4つの部位に分類されます。

上記の図から前頭葉は「おでこから頭頂部」にあたる部分であることがわかりますね。

前頭葉の機能

ロボトミー手術ではこの前頭葉の機能を阻害する処置を施すことになるのですが、実際に前頭葉にはどのような機能があるのでしょうか。

以下が前頭葉の主な働きです。

・実行機能

前頭葉は行動によって生じる結果の予測、よりよい行動の選択、物事のカテゴライズ等の能力を司っております。

・長期記憶

前頭葉は長期記憶の保持を司っております。側頭葉に貯められた記憶を取り出す役割があるのです。

つまり人間でいう「理性」や「知性」を大きく左右する部位なのですね。

前頭葉がダメージを受けると?

前頭葉がダメージを受けるとどのようになってしまうのでしょうか。

最悪の場合だと命を落とすこともございますが、今回は幸い命に別状がなかった場合についてご紹介します。

前頭葉前側のダメージ

前頭葉前側は、思考、やる気、感情、性格、理性などを司っております。

仮に外傷や病気で前頭葉の前側にダメージを受けた場合、

  • 几帳面な人がだらしなくなる
  • 人格者が幼稚になる
  • 何もやる気がなくなる
  • 何も考えられなくなる

など、人間としての性格や行動に大きな影響が出ます。

この部分が、あなたをあなたたらしめているといっても過言ではありません。

前頭葉後側のダメージ

前頭葉後側は、体の動きを司っております。

ですので、前頭葉後側にダメージを受けた場合、体の一部が麻痺することになります。

ロボトミー手術の対象は前頭葉の前側

上記より、精神外科であるロボトミー手術の対象は前頭葉の前側なのです。

人の心に大きな影響を与える前頭葉の前側、その機能を阻害してしまえば、精神病を解決できると考えたのです。

ロボトミー手術臨床実験のきっかけ

ロボトミー手術の学会発表があったのは1935年。

脳の働きについて、ようやくなんとなくわかりはじめてきた頃です。

そんな時代に前頭葉だけを詳しく分析する技術などございませんでした。

そこで前頭葉に外傷を負った患者たちの様子を観察する必要がございました。多くの外傷患者を研究対象としましたが、最も有名な患者は「フィネアス・ゲイジ」氏。

鉄道爆発事故

1848年鉄道敷設の最中、爆発事故が発生しました。

その衝撃で飛んできた鉄の棒がフィニアス・ゲイジ氏の頭に刺さってしまったのです。その棒は彼の前頭葉を貫通。

奇跡的に命を取り留め、記憶も元のままでした。

以下は現代技術で再現された3DCGです。

人格に異変

しかし、ゲイジ氏の人格はすっかり変わってしまったのです。

以前まで優しく温厚であったゲイジ氏は、意地悪で攻撃的になりました。

研究によりそれは、前頭葉の中でも眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)という、前頭葉の前側でも目に近い部分、すなわち感情をコントロールする部分が損傷したからであるということがわかりました。

チンパンジーへの実験

上記のフィニアス・ゲイジ氏を始め多くの外傷患者を研究した結果、ついにイェール大学のジョン・フルトン博士は生物実験までこぎつけました。

比較的前頭葉の発達している動物として「チンパンジー」が挙げられます。フルトン氏はチンパンジーの前頭葉をいじくり、どのような結果がでるのか研究し始めました。

この研究期間は5年。

眼窩前頭皮質切除

フルトン博士は2匹のチンパンジーの眼窩前頭皮質のみを切除しました。

すると、チンパンジーは獰猛になり、床に排便するなど明らかに知能が退化したと考えられる結果が得られました。

前頭葉全切除

続いて、上記のチンパンジーの残された前頭葉を全て切除しました。

すると、獰猛なチンパンジーはたちまち動かなくなり、落ち着いているように見えました。

このことから、ジョン・フルトン博士は

「前頭葉を摘出すると、性格が穏やかになる」

という研究結果に対する考察を1935年の学会で発表しました。

前頭葉の神経を破壊する手術

その学会発表を聞いていた1人に、アントニオ・エガス・モニス博士がおりました。

彼は現在でも用いられる脳神経の腫瘍を見れるようにする方法を開発するなど、大変優れた神経学者でした。

しかし、当時、ノーベル賞受賞を2回逃しており、新たな革新的なアプローチに飢えておりました。

そんなモニス博士のもとに舞い込んできたチンパンジーの研究結果。彼は脳腫瘍の他にも、うつ病などの精神疾患に大きな興味を持っていたのです。

エネルギーに満ち溢れたモニス博士の熱意はすべてロボトミー手術の臨床実験に注ぎ込まれることになりました。

シナプス切断仮説

フルトン博士のチンパンジーの実験では直接前頭葉を切除するという方法がとられましたが、人間にその手術を適用することは危険すぎることは明らかでした。

そこでモニス博士が以前、ロボトミー手術とは別の研究で辿りついた仮説脳はシナプスという脳細胞同士の信号をやりとりすることで機能しているというものを応用。

前頭葉に繋がるシナプスを孤立させてしまえば、前頭葉は事実上、その機能を失うのではないかと考えたのです。

ちなみにモニス博士は、うつ病などの神経障害はこのシナプスの信号の受信が上手く行われておらず、繰り返し送信が行われてしまうからではないかとも考えておりました。現代では彼のその仮説は概ね正しいと言われているから驚きです。

ロボトミー手術、人体臨床実験

モニス博士は研究に研究をかさね、フルトン博士の学会発表から4ヶ月後、はじめてのロボトミー手術に挑みました。

最初のロボトミー手術

最初のロボトミー手術の被験者は神経疾患を患っていた60歳の女性でした。モニス博士の助手は被験者の頭蓋骨の2箇所に穴を開け、その部分に注射器を刺し、アルコールを注入しました。

アルコールに触れた部分の脳神経線維が破壊されるのです。これにより、前頭葉のシナプスを他の脳の神経と独立させたのです。

結果として、女性の命に別状はなく、ロボトミー手術の前に患っていた精神疾患は完治しました。

しかしながら、それよりも恐ろしい結果が待っていたのです。

彼女はロボトミー手術によって感情という感情を失い、もはや人間とは言えない状態になってしまったのです。

ルーコトミー手術がノーベル賞受賞

上記の結果を受け、モニス博士はロボトミー手術の研究と実験を続けました。

ロボトミー手術に用いる器具も独自に開発・改良を重ね、最終的に「ルーコトーム」と呼ばれる器具が完成。この器具を使えば、切断する脳神経を選択することができるのです。

このルーコトームを用いて、様々な精神疾患を患った被験者にロボトミー手術を試みましたが、最終的に精神疾患を完治させるには前頭葉につながる脳神経のすべてを切断しなければならないという研究結果に。

しかし、精神疾患を完治させるという点では成果が出たとも考えられるこの手術。この時点ではロボトミー手術ではなく、「ルーコトミー手術」と名づけられました。

そしてこの研究を行ったモニス博士は共同研究者であったスイスのヴァルター博士と共に、1949年、ノーベル生理学・医学賞を受賞。ロボトミー手術が認められたのです。

アメリカで流行ったロボトミー手術

上記のモニス博士の研究結果を受けて、アメリカの医療団体は沸きました。なぜならば、当時アメリカでは精神疾患が急増しており、その治療方法に困っていたのです。

ルーコトミー手術を標準化

アメリカといえば、標準化が得意な国です。

誰もがルーコトミー手術をできるようにしよう、そう考えたウォルター・フリーマン博士は助手のワッツ博士と共にルーコトミー手術を標準化。

彼らはこの標準化されたルーコトミー手術を

ロボトミー手術

と名づけました。

許容できないロボトミー手術の結果

フリーマン博士はあるロボトミー手術の最初の被験者として、1人の女性を選びました。彼女はカンザス州の主婦で、気分障害を患っておりました。

ロボトミー手術の結果、彼女の気分障害は完治。さらに他者との会話も行えるなど、驚くべき結果が出ました。

しかし彼女は個性を失ってしまったのです。彼女は生きているし、しゃべれるけれども、彼女ではなくなってしまったのです。

第二次世界大戦後

上記のような結果を受けても、なお、ロボトミー手術はアメリカで流行し続けました。

失敗は成功の母

その言葉が負の方向に働くこともあるのです。

やがて第二次世界大戦が終わり、多くの兵士たちが母国に帰ってきました。彼らの多くはPTSDなどの精神疾患を抱えており、ロボトミー手術の患者になったのです。

彼らの精神疾患を治療するにあたって、ロボトミー手術の技術には様々な改良が加えられました。

具体的には、例えば、頭蓋骨に穴を開けることはせず、目蓋の下から直接前頭葉にアクセスし、そこからルートコームを挿入する方式が発明されたのです。

この方法は「経眼窩式ロボトミー」と呼ばれました。他にも様々な手技が編み出され、ロボトミー手術は栄華を極めました。

ロボトミー手術の終焉

第二次世界大戦を通じて、多くの患者がロボトミー手術を受けました。

それゆえ、ロボトミー手術の結果に関する情報も多く出てきたのです。その結果、ロボトミー手術が人間を人間でなくしてしまう手術であるということが判明します。

まず異変として、ロボトミー手術を受けた多くの患者の瞳が、無意識の内に揺れ動くようになることが判明しました。

さらに集中力・やる気・生きる意欲・創造性を失い、無気力状態に陥るということも判明。

これらを受けても、人間の凶暴性を抑制することのできるロボトミー手術は少しの間は行われ続けました。

しかしながら、ついに精神疾患に働きかける新薬の開発が進み、ロボトミー手術の費用対効果が薄れ、ロボトミー手術は次第にこの世から姿を消すことになりました。

まとめ

ロボトミー手術は怖い。でも研究の功績もあると思うんだ。

ボーン

最後までお読みくださいましてありがとうございました。

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