アメリカ訴訟大国伝説「マクドナルド・コーヒー事件」

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皆様はドライブスルーをご利用になられたことがございますか?

車保有率が日本の約2倍もあるアメリカにおいてドライブスルーはより浸透しております。

今回はアメリカのマクドナルドのドライブスルーで実際に起こった事件。

ドライブスルーで購入したコーヒーをこぼして重度の火傷を負ってしまった…

とても事件とは思えない事案ですが、アメリカの裁判所はマクドナルド側に多額の損害賠償金を支払うような判決を下しているのです。その金額はなんと、

286万ドル(約3.3億円)

判決を受けた後、交渉を経て最終的には上記の金額よりも少ない金額で和解となったそうですが、驚きの事件ですよね。

※なお火傷を負ってしまった方の批判をする意図の記事ではございませんので、ご了承ください。

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事件概要

裁判所の判決についてご説明申し上げる前に、まずは実際に何が起こったのかご説明いたします。

コーヒーの注文

1992年2月27日、ニューメキシコ州アルバカーキ在住の79歳の女性ステラ・リーベック氏はお孫さんの運転でギブソン・ブルーバード・サウスイーストをドライブしておりました。

彼女は通り沿いにあるマクドナルドのドライブスルーにて49セントのコーヒーを注文しました。

リーベック氏の愛車はフォードプローブ1989年製。…その車にはカップホルダーがございませんでした。

フレッシュとシュガー

リーベック氏はブラックコーヒー派ではございませんでした。注文したコーヒーにコーヒーフレッシュとシュガーを入れる必要があったのです。

そこで車を運転していたお孫さんが車を一時停車し、リーベック氏はその作業を行うことに。

両膝の間にコーヒーの入ったカップを置き、蓋を開けようとしたとき事件が発生しました。

コーヒーのカップが傾き、コーヒーが膝の上にこぼれてしまったのです。当時のリーベック氏の服装は綿のスウェット。コーヒーがどんどん染み込み、リーベック氏はあまりの熱さに悲鳴をあげ、車外に飛び出しました。

重度の火傷と後遺症

いざ病院に着いて外傷部分を確認すると、リーベック氏のでん部・太もも・脚部・足の付け根という下半身全体に火傷を負っていることが確認されました。

詳しい検査の結果、皮膚の6%が3度火傷、他16%がそれ以下の火傷を負っていることがわかりました。3度火傷といえば、皮膚移植手術が必要なくらい重度の火傷です。

皮膚移植手術のため、そのままリーベック氏は8日間の入院生活を強いられました。入院生活はご老体にとってはかなり酷。結果、彼女は入院生活を通して全体重の20%軽くなってしまいました。

さらに退院後もすぐには普通の生活に戻ることが出来ず、娘さんによる3週間の介護を必要としました。

示談

上記を受けて、リーベック氏側はまずは訴訟を起こさず、マクドナルドに対して損害に対する賠償を請求しました。

当初の請求とマクドナルド側の対応

当初、リーベック氏は特に法律の専門家に相談していたわけではなく、単に治療費などを簡単に試算して請求しただけでした。その額は18,000ドル(約206万円)で内訳は概ね以下のようなものでした。

  • 実際の医療費:10,500ドル
  • 将来の見積り医療費:2,500ドル
  • 介護による娘の所得の機会損失:5,000ドル

この請求に対してマクドナルド側は800ドル(約9万円)を支払うと回答しました。

ここで両者の交渉が決裂することに。

法廷で会おう

上記のマクドナルド側の回答を受け、リーベック氏側はケン・ワグナー弁護士に相談しました。

ワグナー弁護士はリーベック氏の利益を最大限に追求すべく、さらにマクドナルド側に対して事細かに考えられる損害額を合算して再び請求しました。その額は300,000ドル(約3,428万円)

これに裁判所ではありませんが仲裁人を挟んで結局225,000ドル(約2,571万円)という額で和解になる…はずでした。

上記の金額の提示を受け、再度マクドナルド側が支払いを拒否したのです。

そこでリーベック氏側は引き続きワグナー弁護士を代理人としてニューメキシコ州地方裁判所に訴状を提出しました。

マクドナルド・コーヒー裁判

裁判を担当したのはニューメキシコ州地方裁判所判事ロバート・H・スコット氏。

アメリカの司法制度で忘れてはいけないのが、陪審員制度です。最近、日本でも裁判員制度が導入されましたが、アメリカでは基本的に陪審員による意見が重要になってきます。

リーベック氏側の主張

リーベック氏の代理人のワグナー弁護士の主張は以下の通りです。

コーヒーの温度が高すぎた

マクドナルドのドライブスルーで提供されていたコーヒーの温度は82℃~88℃でした。

マクドナルドのコーヒーを皮膚の上にこぼしたとすると、2~15秒で3度の火傷を引き起こすという検証結果を陪審員にアピール。

そして一般的な家庭のコーヒーメーカーから抽出されるコーヒーの温度をあげると約60℃。

仮にその中間である71℃までコーヒーの温度を下げた場合、20秒は猶予ができると主張しました。

その他に提供されてすぐに口につけた場合、口を火傷する危険もあることを指摘(本旨とは関係ない主張かもしれませんが)。

同様のクレームが10年間で700件は多い

マクドナルドのコーヒーをこぼして火傷をしたという苦情が1982年~1991年の約10年間で700件寄せられていることも主張しました。

10年間で70件という数字が多いか少ないかで、リーベック氏側とマクドナルド側との意見の相違がございますが、ともかくリーベック氏側としてはこの数字は多いと捉えております。

つまりこれだけの苦情があったのにも関わらず、改善しないマクドナルド側に過失(ミス)があったと言いたいわけです。

注意不足

「熱すぎるコーヒー」、「多数の火傷のクレーム」を踏まえて、リーベック氏側はマクドナルドの顧客に対する注意喚起が足りないという最終的な主張を述べました。

紙カップには確かに注意書きはなされておりましたが、小さくて目には付きづらいところにありました。

そしてドライブスルーの店員さんも何の注意もせずに熱々のコーヒーを渡しました。

このように十分な注意喚起もなされなかったことにより、カップの中のコーヒーの温度をリーベック氏が知る由もなく、大火傷を負ってしまったという主張をしてきたのです。

マクドナルド側の主張

リーベック氏側の主張を受けて(本来は交互に様々な主張をしあってますが)、マクドナルド側は以下のような主張をしました。

コーヒーが熱いのは顧客の為

コーヒーの最初の温度が低ければ、コーヒーが冷めてしまう時間も短くなることは当然です。

マクドナルドは顧客にできるかぎり長くホットコーヒーを楽しんでもらおうと高い温度のコーヒーを提供していました。

特にドライブスルーに関しては長距離移動の顧客層も多く、そのような顧客にとってうれしいのはやはりすぐには冷めないコーヒー。

マクドナルド側はコーヒーが熱いのは顧客を考えてのことであると主張したのです。

また他のチェーン店でも同水準の温度でコーヒーが提供されているのも確かでした。

さらに火傷のおそれを言い始めたら、54℃以上の飲食物すべてに火傷のリスクがあるので、食品業界の慣例そのものを覆しかねないと指摘しました。

同様のクレームが10年間で700件は少ない

リーベック氏側はコーヒーによる火傷のクレームが10年で700件は多いという主張でした。

実際のコーヒーの販売数ベースで考えると、年間2億5千万個を超えております。10年間では25億個が販売されているということになりますので、“700/2,500,000,000”という販売個数対クレーム数では天文学的数字になってくるわけです。

これを踏まえてマクドナルド側はこの数字は少ないと主張。

並びに同様の内容の訴訟で50万ドル(5,713万円)請求されたことがありましたが、実際に満額支払わず和解していることも主張しました。

陪審員の判断

上記の他にも様々な両者の主張を受けて、陪審員たちは判断を行いました。

決定的だったのはリーベック氏の痛々しい火傷の写真でした(ショッキングな画像のため本エントリーに掲載することは控えさせていただきます)。

マクドナルドはコーヒーが火傷する危険性があることを自覚しており、注意喚起を行う機会があったのにも関わらず、十分な注意喚起を行わなかった

ということで陪審員は80%はマクドナルド、20%はリーベック氏の過失であったと判断しました。

賠償金

これによりマクドナルド側は286万ドル(約3.3億円)の賠償金を支払わなければいけなくなったのです。

内訳としては、

  • コーヒーによって生じた損害額:160,000ドル
  • 懲罰としての賠償額:2,700,000ドル

最終的には500,000ドル以下(非公開)の和解金で和解したようです。リーベック氏側からすると、懲罰的な賠償は望んでいなかったのです。

余波

注意書きの徹底

この裁判を受けてもちろんマクドナルドは紙カップに「HOT!」など大きく熱いことをアピールするような注意書きをするようになりました。

また、スターバックスを始め多くのコーヒーチェーンのカップが刷新され、熱いので注意してくださいという旨の大きな注意書きが印刷されるようになりました。

判例を逆手にとる訴訟

1998年に高温のコーヒーを抽出するコーヒーマシンの会社が訴えられる、また別の年ではマクドナルド以外のチェーン(バーガーキング、ウェンディーズ等)が同様の訴えを受けるなど、より多くの訴状が裁判所に届くようになりました。

しかしこれらは棄却・もしくは原告全面敗訴という結果になっており、マクドナルド・コーヒー裁判は云わば死んだ判例となっているのかもしれません。

リーベック氏への悪評

マクドナルド・コーヒー裁判はアメリカの司法制度の影の部分を示した事件としてアメリカのメディアはもちろん、多くの先進国のメディアで取り上げられました。

「コーヒーをこぼして数億円!」

実際にはリーベック氏は数億円を辞退したわけなのですが、裁判だけ切り取ってみれば上記の見出しでも間違ってはおりません。

特にアメリカではコメディ番組やアニメ番組で風刺的に扱われるなど、リーベック氏を半ば侮辱するような風潮が高まってしまったのです。

2004年にリーベック氏はお亡くなりになってしまいましたが、1994年の裁判から約10年間の余生はこの過度な悪評に悩まされていたといいます。

まとめ

何億も貰わなかったのに、悪評だけ…辛い。

<<スレンダーマン>>

<<アメリカ・デンバー国際空港の闇>>

<<ある老人の秘蔵怪奇写真集>>

<<「カルピス」の語源>>

<<カンザス州アシュリー町消失事件>>

ボーン

最後までお読みくださいましてありがとうございました。

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