弊ブログでは過去にムーミンに関する、眉唾的な都市伝説をご紹介いたしました。
トーベ・ヤンソン氏原作の『ムーミン』は日本では大きく分けて2シリーズのアニメが制作されました。1970年頃の『ムーミン』と1990年頃の『楽しいムーミン一家』です(クールでさらに細かく分けることはできます)。
そのうちの最初の方に放送された『ムーミン』はフジテレビ系列で放送されていたことから「フジテレビ版ムーミン」と呼ばれることが多々ございます。
その「フジテレビ版ムーミン」は
完全に黒歴史扱い
されているのです。そういえばアニメのムーミンといえば後に放送されたテレビ東京系の『楽しいムーミン一家』が紹介されることがほとんどで、「フジテレビ版ムーミン」はなかなかお目にかかれません。
「フジテレビ版ムーミン」は一体どのような点で問題があり、現在どのような対応がとられているのでしょうか。
フジテレビ版ムーミン
『ムーミン』の原作小説、絵本に関するあらかたのご紹介は前エントリー(『ムーミン』は核戦争後のお話?!)にて行っておりますので、弊エントリーではさっそく「フジテレビ版ムーミン」に関するご紹介からはじめさせていただきます。
大塚ムーミン
フジテレビ版ムーミンのキャラクターの見た目からはどこか原作とは違い、日本らしい暖かみ、可愛さを感じられます(原作とは違う魅力があるということです)。
というのも、フジテレビ版ムーミンのキャラクターデザインを担当なさったのは大塚康生氏。彼は『ルパン三世 カリオストロの城』のキャラクターデザインを手がけるなど、アニメーターのレジェンド的存在。スタジオジブリの宮崎駿氏の東映時代の直属の上司でもあったすごい方なのです。
実際にムーミンが放送されていた当時も日本では「丸みを帯びていて、可愛らしい」という評価でしたので、彼のキャラクターデザインの腕が優れていることが伺えますね。
ムーミン役の声優は岸田今日子
フジテレビ版ムーミンの主人公であるムーミン・トロール役の声優を務められたのは今は亡き大女優の岸田今日子氏。
岸田氏は当時離婚なさったばかりで、娘さんに自分の仕事を見せてあげたいという気持ちがあったため、ムーミンを演じることになったそうです。収録の現場には必ず娘さんを連れて行ってあげていたとか。
「ねぇ!ムーミン、こっちむいて」
実際にアニメをご覧になられたことのない方でも、
ねえムーミン こっちむいて
というフレーズや曲をお聞きになられたことはあるのではないでしょうか。
これは実は「フジテレビ版ムーミン」の第二期のOP曲『ねぇ!ムーミン』からの引用なのです。作詞は『ひょっこりひょうたん島』などでおなじみの故井上ひさし氏によるもの。
超ゴールデンメンバーで制作していたのですね。
大変恐縮ながら本エントリーで詳しくご紹介申し上げるのは割愛させていただきますが、黎明期のアニメ界を代表する脚本家の山崎忠昭氏なども携わっておられました。
1969年版と1972年版?
実はフジテレビ版ムーミンは1969年と1972年の2期放送されております。
1969年版の途中までは「東京ムービー」というアニメ会社が制作を行っておりました。1969年版のそれ以降、そして1972年版は「虫プロダクション」が制作を行いました。
この制作会社の交代に関しては後述させていただきます。
黒歴史ムーミン
今思い返すと超豪華なムーミン。
しかし、放送界ではタブー視されており、再放送はなされず、一部ビデオ化レーザーディスク化はなされたものの再び発売するのは難しいといわれております。
一体何が悪かったというのでしょうか。
原作者からの苦情
フジテレビ版ムーミンの制作を開始したのは『ベルサイユのばら』などで有名な日本のアニメ会社「東京ムービー」でした(現在は幾多の組織再編を経て、「トムス・エンタテイメント」になっております)。
制作サイドからすれば最善を尽くしたアニメ化でしたので、その作品の出来には自信があったそうです。そこで第7話「さよならガオガオ」のフィルムを原作者のヤンソン氏に見てもらったそうです。
・・・しかし、ヤンソン氏側のコメントは辛辣なものでした。
これは私のムーミンではありません。
まずヤンソン氏が呈したのは、キャラクターデザインについて。
前述の通りフジテレビ版ムーミンではキャラクターたちに日本アレンジが加えられていたのですが、どうも原作のヤンソン氏からすると気に入らなかったようです。
例えば、
文明・暴力はダメ
ヤンソン氏によると、
とのこと。実際には原作中にもこれらが登場しているシーンがあるのですが、原作者が仰ることなので仕方がないですね。スニフがお金大好きなのはどう説明
確かに殴り合いの喧嘩をするという激しめの表現もあったので、ヤンソン氏にとっては不快に思える部分もあったのでしょう。
さらに当時の外国のアニメは暴力的で野蛮なことが多く、そのイメージがヤンソン氏にあって「ムーミンが野蛮になってしまう!」という心配があったのかもしれません。
ちなみにこのバイオレンス表現に対する苦情については、直接文書で残ってはいないとのこと。真偽の程は定かではございません。
とはいえ、宮崎駿氏の個人的趣味で出した戦車は完全にアウトだと思いますが…。
エンディングのギターダメ
第一期のエンディングソングでムーミンがギターを弾いている映像が流れたのですが、これについてもヤンソン氏は苦言を呈しました。
たしかに言われてみれば、原作のムーミンがギターを弾くのはなかなか困難ですね。ウクレレなら可能でしょうか。
次回作あるんで
そんなこんなで鼻っ柱をへし折られてしまった東京ムービー。
というのは表向きのお話。
いやいや『ムーミン』が赤字アニメだったからということ自体、表向きにすべきことではないでしょう?とお思いになられた方もいらっしゃるかもしれません。
『ムーミン』が赤字だったのは事実ですが、実はこの撤退は予定されていた撤退だったのです。
というのも『ムーミン』自体は元々2クールしか制作しないつもりだったのですが、思ったよりも人気で最終回を迎えられなかったのです。さらに東京ムービーは次回作『ルパン三世』の制作を控えており、『ムーミン』を斬り捨てざるを得ませんでした。
ただ別の作品があるので、やめますと言うと角が立ってしまうため、赤字になったからという事実だけを表明したのです。
虫プロダクション版
制作を引き継いだ会社が手塚治虫氏で有名な「虫プロダクション」。1969年版の第27話から制作に携わることになりました。
このバトンタッチは急遽行われ、十分な引継ぎが行われないまま虫プロダクションによるアニメ制作が始まったといいます。
まずはキャラクターを原作に寄せてみよう
ヤンソン氏からの要望に関して真摯に受け止めた新スタッフたちは、まず大塚ムーミンを原作ムーミンに近づける努力をしました。
原作者の要望どおり、全てのキャラクターが「シュッ」とした感じに。
もっとメルヘン色を入れていこう
車・戦争・お金がない世界… この世界を表現する方法として不思議要素を盛り込むことにしました。
戦車はもちろん車もほとんど登場しなくなり、私たちの世界とは全く別世界のような世界観に変わりました。道徳的なお話も多くなりました。
虫プロダクションは様々な変更を行い、なるべくヤンソン氏からの要望に沿えるようにしました。
視聴者には悪印象
大塚ムーミンが丸々していてかわいかった分、たとえ原作に近くなっていても「シュッ」とした虫プロ版ムーミンは視聴者には愛されにくいデザインになってしまっていました。
実際に1969年版の第26話⇒第27話で絵柄がガラっと変わったので、嫌悪感まで感じた視聴者の方もいらっしゃったとか。
結局タブー
虫プロダクションによって大幅に原作に近づいたかに思われたフジテレビ版ムーミンでございますが、結果的にはタブー扱いになっております。
1990年まで
虫プロダクションの奮闘の甲斐あって、ヤンソン氏からのクレームも落ち着き、以前の1968年版も含めて頻繁に再放送されておりました。
実際に劇中の曲のレコード・アニメのビデオが発売されたり、交通安全運動のキャラクターに起用されるなど日本中では人気アニメキャラとなっておりました。
…1990年までは。
ヤンソン監修アニメ登場
1990年に放送が始まった『楽しいムーミン一家』というアニメ。実はこのアニメは原作者トーベ・ヤンソン氏が直接制作に関わったアニメなのです。
つまり
完全体ムーミン
なのです。
とどめ
この完全体の放送開始と同時に、ムーミンの権利を管理している「ムーミン・キャラクター社」(ヤンソン氏の姪が経営なさっている会社)がフジテレビ版ムーミンにフィニッシュ・ブローを決めました。
フジテレビ版ムーミンの活動が禁止されたのです。
どうりで再放送を見かけないわけですね。
残党狩り
とはいえ、今は高度にネットワーク化が進んだ社会。YouTubeやニコニコ動画などの各種動画サイトに違法とはいえ『フジテレビ版ムーミン』がアップロードされていても不思議ではありません。
…原作サイドは甘くはありませんでした。
現在でも時折フジテレビ版ムーミンが動画サイトにアップロードされることがあるらしいのですが、権利者の申し立てが迅速に行われ、アニメ本編を閲覧することはできないそうです。
つまり当時のVHSなりレーザーディスクを入手しなければ、通常閲覧することはできない世界になっているのですね。
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※著作権で保護された映像の違法アップロード及びその視聴に賛成しているわけではなく、管理者サイドの厳密な管理体制への感心でございます。予めご了承ください。
逃げ延びた
そんな中、フジテレビ版ムーミンが細々と再放送されている地域がございます。
そこはなんと
台湾
台湾においては約5年ごとにフジテレビ版ムーミンの再放送が行われているのです。
当初フジテレビ版ムーミンの規約には「輸出を禁止する」旨があったとのことですが、何故か台湾には渡ったようですね。
ちなみに中国ではフジテレビ版ムーミンの海賊版ビデオも出回っているらしいですが、それは確実にアウトなのでノーカウントとさせていただきます。
まとめ
ともかくフジテレビ版もテレ東版も好きですよ!
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最後までお読みくださいましてありがとうございました。